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持ち株会社化による組織改革で
迅速な意思決定が可能に
明治維新胎動の街、萩市で廃棄物処理業を営む萩新栄。1969年創業以来、行政の信頼を獲得しつつ、業容を広げてきた。近年、烏田(からすだ)栄二社長は、持ち株会社化を軸にした大胆な組織改革に踏み切り、さらなる飛躍を目指している。烏田社長と田中義一顧問税理士を中心に話を聞いた。
左から田中義一税理士事務所の草野遥菜氏、田中義一税理士、烏田徳子氏、栄二社長、勝則専務、淑恵氏
有限会社萩新栄
業 種 廃棄物収集運搬業他
創 業 1969年4月
所在地 山口県萩市大字椿東字平方2917番地
売上高 2億3000万円
従業員数 25名(グループ)
顧問税理士
税理士 田中義一
田中義一税理士事務所
山口県萩市土原35番地3
――創業は1969年だとか。
烏田栄二社長 萩市の仕事だったし尿処理を、祖父が民間事業者として請け負ったのがスタートです。
――そこから業容を広げてきたわけですね。
栄二 業務を滞りなく行ううちに行政からの信頼も得られるようになり、70年代中盤には、同じく行政から委託される形で、浄化槽の清掃保守点検も手掛けるようになりました。さらに90年には産業廃棄物、家庭から出る一般廃棄物の収集運搬にも参入し、2000年代に入って、空き缶や発泡スチロール、古紙類などのリサイクル事業に進出しました。
――新事業に参入できた理由は?
栄二 先を見据えながら、提案型の営業を行ってきた結果だと思います。行政の考える課題解決に協力できる手段と信頼関係を構築できていたということでしょう。
――社長が入社されたのは?
栄二 入社したのが25歳のときで2004年、社長になったのが09年です。入社時は年商で1億円くらいでしたが、そこから提案型営業で伸ばしてきて、現在は2億3000万円。事業の内訳一般廃棄物と浄化槽で6割、あとの4割は産業廃棄物、そしてリサイクル物品の収集・販売です。
――強みは?
栄二 前述したように先を見通す力と提案力だと思います。たとえば、リサイクル事業においても、産業廃棄物を運搬するだけでなく、当社ではそれを分別してリサイクルの市場に乗せるしっかりとしたルートを持っています。市のリサイクル率の向上に寄与できる体制を用意できた点が強みですね。
――具体的には?
栄二 空き缶の回収においては、アルミとスチールを選別・圧縮する機械をいち早く導入しました。それから発泡スチロールを溶かしてプラスチックの原料にする装置も導入して、かなり売り上げを伸ばすことができました。萩は港町なので、発泡スチロールの使用量が多いのです。
リサイクル事業は、北京五輪が始まる前に原料コストが上がることを想定して08年くらいから着手。実際に、原料価格は高騰し、リサイクル率の向上と経済性の両立ができ、行政からの信頼も厚くなったと感じています。
――近年は組織改革にも取り組まれているとか。
栄二 先代に代わって私が経営を任されるようになり、月の売り上げや利益、あるいは借入金の返済余力など、重要な経営データが見えないことに不安感を覚えました。
ブラックボックスのまま引き継いでも大変な目に合うぞと。そこで顧問の田中義一先生に、計数管理をしっかりと行うための組織改革ができないか相談しました。その頃に、「ホールディングス(持ち株会社)化」というアイデアも芽生えたように思います。
田中 まずは、経理業務をシステム化した上で、月次決算など現状把握ができる体制を整えることを提案し、『FX2』を導入しました。社長のお母さまである徳子さんに経理をお願いし、数年後、IT導入補助金を利用して『FX4クラウド』にバージョンアップしました。『FX4クラウド』では、「廃棄物」と「浄化槽」の2部門で部門別管理しています。
栄二 田中先生には会計参与※への就任をお願いし、当社の経営に参画してもらっています。(※会計参与…2006年5月に施行された会社法で新設された役員制度で、取締役または執行役とともに貸借対照表や事業報告書などを作成したり、その書類を別に保管し、それを株主や債権者へ開示する職務をもつ機関)
――ホールディングス(HD)化はどのように?
栄二 弟(勝則専務)も自分の下で働くよりも会社を持った方がモチベーションも上がるだろうし、また、社員を適材適所に配置するためにも分社化が有効だと感じていました。そこで、昨年、田中先生のお力を借りながら「萩新栄」と「ケイ・ツー」という2社体制にし、「新栄ホールディングス」の傘下に入る形に組織改編しました。
烏田徳子新栄HD社長 一昨年に亡くなった会長(先代)の「兄弟仲良く」という意向もあり、それぞれが一国一城の主となって責任を持ち、お互いに高めあっていく体制にしたのです。
烏田勝則専務(ケイ・ツー社長) ホールディングス化の目的は「輪」です。(母兄弟という3名の)輪を保ちながら会社を大きくしていくために、分社化して、それぞれがしっかりと責任を持って業績を把握し、事業を推進していくことが大事です。
田中 組織が大きくなるとどうしても判断が遅くなってしまいます。兄弟でそれぞれ意思決定できる体制を整え、そのうえで、新栄ホールディングスの社長をつとめる徳子さんがバランスとっている。理想的ではないでしょうか。また、株や不動産をホールディングスに集中することで、次世代の相続対策にもなります。
――萩新栄と株式会社ケイ・ツーの業務の振り分けはどのように?
栄二 許可業の部分を萩新栄、それ以外をケイ・ツーが担います。ケイ・ツーでは見積書や契約書の作成、経理事務、現場の管理業務などを担当します。萩新栄がケイ・ツーに業務を外注する形ですね。
――会計システムは?
田中 萩新栄は今まで通り『FX4クラウド』、ケイ・ツーには『FX2クラウド』を導入しました。萩新栄では販売管理ソフトと『FX4クラウド』をデータ連携していますし、ケイ・ツーでも『FX2クラウド』にある「販売管理機能」を使って、勝則専務が開発された業務管理ソフトと連携させる予定です。TKCのフィンテック機能も使いこなしておられますし、企業規模の割には高度なDXを実践されている印象です。
新栄ホールディングスの目指す形
――NPO法人『mi&go』(ミーゴ)も立ち上げられたとか。
栄二 当社は、市内の小学校でごみ問題の出前授業を実践するなど地域貢献やSDGsに関する活動も精力的に行っていますが、その流れのなか、専務の発案でNPO法人として障害者の一般就労継続支援事業を立ち上げました。
勝則 当社は障害者雇用に熱心に取り組んできましたが、彼らを持続的に雇用できる仕組みづくりができないかと常々考えていました。このNPO法人を核にして、萩市や長門市など北浦地区の行政も巻き込みながら、働き先を募集し、また、住居まで提供できるような体制づくりをしたいと思っています。それと「消滅可能性自治体」と定義された萩市のなかでビジネスを考えたときに、障害を持った方々を責任持って迎え入れることができれば、確実に地域の活性化に貢献できるのではないでしょうか。
――今後は?
栄二 萩という歴史ある街を永続的に発展させていきたいですね。たとえば副業やワーケーションの場として、また食料自給という意味でも萩は都会よりも優れているので1次産業も有望です。北浦地区が団結して、外部からの受け入れ体制を整備できれば、消滅可能性自治体という地域課題の解決につながるし、当社はそこに寄り添った事業展開を進めていきます。